研究内容(久保埜)

代表的な研究テーマを以下に示します。


1.超分子機能を用いた集積型錯体に関する研究<結晶化学・超分子化学>

 超分子とは「個々の分子を配位結合や水素結合等でネットワーク化し、これによって形成される分子群」を言います。このテーマは配位結合や水素結合等の相互作用を用いて複数の分子の並び方を自在に操り、新たな物性の発現を探求することを目的としています。物性は構造と密接な関係にあり、特に磁気的・電気的な性質は分子の配列(結晶構造)に依存しています。つまり、分子配列の違いで物性が変化し得るのです。ここでは、配列制御が可能な錯体の構造と物性発現(磁性・電気伝導性・液晶性など)に関する研究を行っています。現在はβ‐ジケトンと多種のアルコールを配位子とする錯体において一次元鎖、二次元、並びに三次元ネットワーク化を試み、それぞれの構築制御に成功しました。


2.妨害イオンを除去する高選択的イオン交換体の開発<分析化学>

 このテーマは環境水中の溶存化学種を定量する際に、妨害となるイオンを完全に除去するためのイオン交換樹脂の開発を行うものです。ターゲットとしているのはモリブデン酸イオンの選択的除去であり、これは当研究室で開発段階にあるリン酸イオンの高感度定量法(JIS法であるモリブデンブルー法と吸着濃縮ボルタンメトリー法とのジョイント)のうちで最も重要なステップです。この方法は、リン酸イオンを直接測るのではなく、錯形成の相手であるモリブデンを高感度なボルタンメトリー法によって測るという間接定量法を採用しています。しかし、これには錯形成試薬として過剰に用いた未反応のモリブデン酸イオンを除去する必要があります。本テーマは、この過剰なモリブデン酸イオンを捕まえて放さず、且つリンとモリブデンの錯体は捕まえない、試薬の開発を目指すものです。このような試薬の開発は分析化学的にも環境科学的にも非常に意義があります。



3.高性能配位子の創製と分析化学への応用 <分析化学・錯体化学>

 このテーマは金属イオンとキレート化合物を形成する配位子を合成し、その機能性を分子構造学的側面から検討し、分析化学に応用する、というものです。応用として目指しているのは「吸着濃縮ボルタンメトリーによる超微量金属イオンの直接定量」と「希土類イオンの分離」です。・・共通キーワードはピコ(10-12 scale)!


「吸着濃縮ボルタンメトリーによる超微量金属イオンの直接定量
 〜高性能配位子の開発〜」

 これは海洋表層中に数十pM10-11 moldm-3)という極微量しか存在していない鉄イオンの直接定量法の開発を行うものです。ここで「何故、鉄なのか?」ということですが、それは海洋中の植物プランクトンの増殖を制限している主要な因子が鉄であると考えられているからです。また、植物プランクトンによる光合成と地球温暖化の主な原因とされている大気中の二酸化炭素量とは密接な関係があるため、海水表層の鉄の定量は非常に重要なのです。さらに鉄のスペシエーション(「横井先生の研究紹介」を参照のこと)を行うためには、pM10-12 moldm-3)以下の濃度での定量が必要となります。よって、上記の測定が可能となるような水溶液中で安定な高性能配位子の開発を行っています。


「希土類イオンの分離・・ピコ・スケールでのサイズ認識機能の追求」

 希土類は最大の磁気モーメントを有するなど、他の元素と比べて特異的な性質を持つため、永久磁石やテレビの発光体など工業的に幅広く用いられています。しかし、これらの元素は、それぞれの化学的性質がよく似ていることから、高純度での単体の分離・精製が非常に困難です。その分離に於いて唯一の手がかりはイオンサイズの違いですが、それでも原子番号の隣どうしの元素間では、イオン半径にして僅か12pmの違いしかありません。したがって、ピコ・スケールレベルでのサイズ認識能を有する高性能試薬が必要となります。現在は、より完成度の高い「ピコ・スケールの制御法」を確立すべく、研究を進めております。



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