研究内容(横井)


1. 電気化学的超微量分析法の開発

 社会環境が多様化を続けていく中で、新素材や環境試料中に存在する元素や化合物の量を知ることは必要不可欠です。元素の存在量が少なくなればなるほど、それを定量することは指数関数的に困難になります。分析化学の分野には多くの定量法がありますが、その中で最も高感度な方法の一つがStripping Voltammetryと呼ばれる電気化学的な方法です。本研究室ではその原理に基づきCu(U), Ti(W), Fe(V), Mo(W), Pb(U)等の濃度が1 x 10-10mol dm-3程度あるいはそれ以下の場合でも簡便に定量できる方法を開発してきました。より多くの元素の定量法の開発および既存の測定法の持つ問題点の解決などがテーマになります。この研究は、民間企業との共同研究としても進行中です。


2. 金属イオンのスペシエーション

 例えば銅イオンの水和錯体と塩化物錯体の性質が異なるように、海水や河川水中に存在する金属イオンも、天然に存在する様々な配位子との間の相互作用が異なれば、生態系を始めとした環境へ与える影響が異なることが示されています。すなわち、分析化学的には、イオンの総濃度を求めるだけでは不充分であり、存在形態別の定量法の開発並びに化学的性質の解明が必要になってきています。この分野の研究は総称してスペシエーションと呼ばれ、近年極めて注目されています。本研究室では、特に、微量金属イオンのスペシエーションに関する研究を1で述べた電気化学的な方法で行っています。

金属イオンMn+が裸の状態(水和イオン)で毒性を発揮する場合高分子量の配位子に取り囲まれると毒性が軽減される。



3.紫外線を用いた溶存有機物の光分解

吸着濃縮ボルタンメトリーを用いて微量定量を行う際、電極に吸着したり金属イオンに錯形成する溶存有機物が妨害になります。従来、酸や酸化剤を用いた加熱分解では、試料を汚染する機会が多く微量定量には不向きでした。本研究室では低圧水銀ランプを用いた紫外線照射により、水から発生する水酸化ラジカルによる半密閉系での室温下での酸化分解を研究しています。これまでに、錯形成可能な官能基を持つ芳香族化合物、界面活性剤、アミノ酸や糖類の分解が可能なことを見いだしています。近年は、多糖類の簡易分析やリン酸イオンのスペシエーションへの応用も検討しています。



4. 混合原子価化合物の研究

 一つの化合物中に含まれる複数の同一元素が、互いに異なった原子価状態にある場合、この化合物は混合原子価状態にあると呼ばれます。この様な状態の時には、通常の原子価状態と比較して、全く異なる性質を示します。たとえば、モリブデンの6価と5価を化合物中に含むと、濃青色を呈することが古くから知られていました。近年、この化合物の構造として、モリブデン原子を150以上も含む巨大な環状の化合物であることが明らかにされ、この現象を中心にして無機イオンの自己組織化を考える新しい学問領域が開拓されつつあります。本研究室では、この混合原子価化合物の生成反応に関する研究を行っています。

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